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備忘録/ Memorandum

【Daniel Harding】

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5月のとある日。差し迫った行事の準備が山積みではあったのですが、ほど良いペースでこなしつつありました。それに関わること数年、精神的には私も夫もかなり参っていました。お互いぶつからないよう、なるべく気を使いながら過ごし、友達もその少し前に遊びに来てくれて、息抜きをしながらの日々でした。何かと物入りな時期にDaniel Harding指揮、パリ管弦楽団のマドリード公演があることを知ってしまうのです!さすがにチケットも高額ですが、Liveは何ものにも代えがたいということはよくわかっているので、残り少ない席を買い求めました。
ダニエル・ハーディングの高い評価は周知のことでしたが、日本でオーケストラを聴くことはそれなりの出費なため彼の指揮は今回初めて。加えてマドリードでの公演は、ピアニストのピリス(Maria João Pires)がこの日で完全に引退するとのこと。演目はベートーヴェンのピアノ協奏曲3番、それとブラームスの交響曲3番でした。
オーケストラの演奏は私が聴いた限りですが、ここ数年の公演で最高に素晴らしかったと思います。弦楽器、管楽器、打楽器、それぞれの音が非常にくっきり聞こえました。そして指揮者の圧倒的な存在感に完全に酔い痴れました。
ピアニストのピリスについては、ポルトガル出身、モーツアルトの録音が多数ある、という認識のみ。小柄な方で、手がとても小さく、とある方のコメント、スタインウェイのピアノよりヤマハのピアノの方が彼女の特性を活かせたのではのではないか、と読みました。生涯現役で活躍する方もいれば、ある時期で引退を決意される方もいます。上記の方の別のコメント、キラリと光る素晴らしい彼女らしい音がある。今までの演奏生活やツアー最終でもあるため、お疲れなのだろうか、とほんの一瞬私自身も感じることもある演奏でした。


このコンサートがあった前後は、スペイン生活が今後どこへ向かって行くのか(大げさですが本当にそんな感じで今もその状態が続いています)という時期でした。紆余曲折あって、一先ず落ち着きましたが、私も夫もスペインにもっと滞在したいと思う反面、そろそろ動く時期なのだけれどなかなか踏ん切りもつかず、状況も伴わずの現実でした。コンサートの内容と私たちの個人的事情は関係ありませんが、このコンサートに行って、スペイン生活をそろそろ終わりにする踏ん切りがついた気がします。決してここでの暮らしが苦痛だからとかそういう意味での気持ちの切り替えではありませんが、今までは何となく迷いがありました。非常に偉そうですが、一流のオーケストラを聞いて、居心地が良いからと言って現状に満足するだけではだめだろう、と思わされました。
私のスペイン生活での感想にも繋がりますが、この国はまだこれから良くなる要素をたくさん持っていると思います。いわゆる欧州の主要国、ドイツ、フランス、イギリスも含む国々で、同じような要素はあったが、既に一周して更にややこしい別の問題が表面化しているようにも感じます。主要国に比べ、スペインが抱えている問題はもっと初歩的なものであるようにも思えるので、それが少しでも解決すれば伸びしろにも繋がるだろうとも思います。
コンサートの感想について再び書きます。久しぶりにスペイン以外のオーケストラの演奏を聴いたということもあるのですが、音が、特に弦の音が本当に美しかったです。スペインのオーケストラは幾つか聴いていますが、まとまりに欠けるように思います。音も多少雑な時が...同じような内容で2017年にも書いています。(スペイン・この3,4年音楽所感)残念なことはもう一つあって、どのコンサートに行っても感じるのですが、観客のマナーが非常に悪いように思います。電子機器の音はこのコンサートでも、ピアノのパートに入るまさにその瞬間、ちょっとびっくりするタイミングで鳴りました。管楽器パートの音量が上がった時におしゃべりをするおじさん、いつも安い席に座るせいだろうか、とも思いましたが、そうでもないようです。喝采は非常に強く行うのですが、アンコールを聞かずさっさと帰り支度をしながら、ブラボー!と叫んでいるのは言葉が悪いですが、調子の良さもあるような気もしてしまいます。この日のアンコールはピリスとハーディングの連弾でした。これを聞かないなんて!アンコール最後のエルガーのエニグマ変奏曲は私も大好きな曲、本当に素晴らしかった!ハーディングの絶え間ない指揮とオーケストラの音がいつまでも耳に残ってしばらく余韻に浸っていたくらいです。
先日義母がスペインを再訪しました。彼女は今熱心にスペイン語を勉強しているせいもあるのか、前回の訪問よりも熱心に色々見聞きしていたのですが、スペインは20年前のフランスを見ているようだ、と話していました。義母の20年前はおそらく30年前に値すると思うのですが(笑)、スペインの良さは人にあると思います。フランス人ほどひねくれていない純朴なこの国の人たちがずる賢くならず、もう少し落ち着いて物事を進められたら...伸びしろが今後楽しみです。