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備忘録/ Memorandum

【買い物でカタルシスは得られない】

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スペインで暮らすようになって、食と日用品以外の消費が一気に減りました。特に衣料は日本にいた時ほど身だしなみに気を使わなくなり、他人の目が大して気にならなくなりました。在外邦人女性の多くも似たような感じではないかと思うのですが、環境でしょうか。それでも仕事をしていた時は多少気遣いもありましたが、クリーニングが必要な洋服を外出で着ることが無駄に思えてきて、服装が簡単になっていきました。クリーニング代が意外と高く、基本的に歩道がかなり汚いのでパンツの裾は結構汚れます。スペインは南で暖かく、ヨーロッパの北とは違うせいか、服装もシックとはほど遠い気がします。
日本で働いていた時、次の給与でこれを買う、賞与であれを買う、と何かしら消費を続け、そして少しずつ物が増えていきました。鍋や家電、、家具等、洋服や装飾品より家庭用品でした。日用品に関しては、日本には100円ショップという優れた店があるので、こちらで買うものは、その質の悪さにうんざりしてしまうことも理由の一つであったり、少し値段が高めのお店の場合は日本での価格とつい比較しがちで消費を控えることもあるかと思います。こちらで買ったキッチンペーパーのホルダーは、芯と台座を繋ぐネジが飛び出していて、ネジも途中で切ってあるのでネジ頭がないネジが刺してあるだけのものです。中途半端な値段のものは壊れたら終わり、を前提にしているような気もします。最近は夫が学会に行く度にもらうチープな名前入りのリュックを愛用するようになりました。私が小学生の頃、紐を通しただけの巾着袋のようなリュックが流行りましたが、企業や商品名入りの販売促進で作った、これ誰が使うんだろう的なものでも普段使っている人は結構います。大粒の雨が降ることはあまりないですが、傘をささない若者は多くて、多分傘なんて買わないのだろう、と、ずぶ濡れの若者を以前の住まいの窓からよく眺めていました。




Madridでは1月と7月に一斉にRebajas:セールが本格的に始まります。家のすぐ近くには、スペインに一社しかないデパート(独占企業ですよね笑)、その目の前にZARAのビルがあります。セール初日は朝から大勢並んでいますが、それには関係なくスペイン人は日頃から買い物好きな人々だ、と常々感じています。日本人に似て、ブランド品、マークの入ったものも好むようにも思います。路上で偽ブランド品と思しき鞄などをトップ・マンタと呼ばれる彼らから買う人もいるそうです(元職場の人も)。来た当初は経済危機が言われていた頃、にも関わらずいくつも紙袋を持ち歩いている人が不思議でした。この国での消費行為は経済的に多少の効果があるかもしれませんが、購買意欲が湧かないのが正直なところです。
世界の長者番付のZaraを含むInditexの創設者Ortega氏はスペイン人です。日本のユニクロも今年ついにバルセロナにオープンするそうです。これらいわゆるファストファッションの躍進を支える途上国、最近はバングラデシュでの過酷な労働条件、そして違法建築のビル倒壊で1000人以上が亡くなった2013年の事故はご存知の方も多いと思います。過去にはNIKEの靴で似たような問題がありました。ファストファッションの問題は2015年公開の「The True Cost:真の代償」という映画やインターネットで知ることができるので改めて書きませんが、この国でもリサイクルと称した洋服の回収ボックスから溢れる洋服、道端に設置されているゴミ箱、住宅の改修で道路に置いてあるバケットの瓦礫に混じって洋服もめちゃくちゃに捨てられています。日本の100円ショップも安さの裏に犠牲になっている人がいることを同じく考えるべきなのでしょう。
廃刊になったマガジンハウスの "Olive" という雑誌に載っていたモデルの言葉です。「買い物でカタルシス:Catharsis(精神の浄化)は得られない」
長いこと記憶している大切な一文です。